毎年桜の季節になると思い出す話があります。
明恵(みょうえ)という鎌倉時代のお坊さんの話です。
彼は今でこそ珍しくありませんが当時としては異色の、
自分の夜見た夢の日記を若いときからずっとつけているという、
夢分析の世界では有名な禅宗の僧です。
夢と向き合うことで自分の精神性を深めるということを
生涯やり続けた人です。
この僧の逸話で桜にまつわる素敵な話があるのです。
年をとり足が不自由になってしまった明恵上人は
夢に出てきた子供のころに行った海のそばに生えていた
桜の大木のことが気になりはじめました。
そこで彼はその桜の木に手紙を書き、
弟子にこれをその桜に届けてほしいというのです。
弟子はもちろん困って
「どのようにすればこの手紙を桜に届けたことになるか」
と質問します。
そのときの明恵の返答が絶妙です。
「明恵さんからの手紙ですよ~、といって、
その辺に打ち捨ててくればいい。
それを変に思う人がいたらそんな人は友達だと思わないことにする」。
人間の友情より、桜への思いや
夜見た夢からのメッセージを優先した話は
それを知ったときから不思議な静けさで
いつまでも私の心に残っています。
特に桜の季節になると、桜に手紙を書いてみたい気持ちになりますが
明恵上人ほどの決断はできず、
心の中でメッセージを毎年送っているにとどまっています。
今年の東京のソメイヨシノはまだ寒さに打ち震えているようです。
そして60年という木の寿命を向かえている木が多く、
弱っているものも多いようです。
そんな木たちに励ましとねぎらいのメッセージを送ってあげながら
明日(3/30)のブルームーン
(ひと月の中で二回目の満月)の夜を過ごすのもよいですね。
参考文献:
「明恵 夢を生きる」講談社プラスα文庫 河合隼雄著
「大人の友情」朝日文庫 〃



